| これからの歯科医療の方向性は? | 6期生 中島 努 |
| 歯科医療は、人々が生涯にわたって口腔の健康を維持し、快適で健康な生活に貢献するものでなければならない。これまでの歯科医療における研究や臨床は、生 じてしまった齲窩をどのように精密に修復するか、失われた歯の代わりをどのように補い、再構築して機能させるかという方向でのみ進められることが多かった ように思う。反面、わずかではあるが齲蝕を予防する取り組みもなされて来たが、残念ながら日本においてはあまり成果の上がらないままに推移している。 戦後50年の歴史の中で、齲蝕予防の様々な活動が行われてきた。そして国民の経済的向上が進み、社会が安定するとともに健康に対する意識は高まり、健康 な口腔に対する関心は日々強まっている。学校における学校歯科の考え方も徐々に変化し、処置率を重視した時代から、子供達への教育的な活動やオブザベー ションという考え方の導入など予防を重視するように流れが変わりつつある。また、一部の地域ではフッ化物の積極的導入により効果を上げている。 しかし、昭和40年代から歯学部・歯科大学が新設され、歯科診療所がうなぎ昇りに増加したにもかかわらず、歯科診療所における齲蝕予防の仕事は目立った 成果を上げていない。相変わらず、再治療再治療を繰り返しながら喪失歯を増やしている。 修復物の平均使用年数は、9年にも満たないといわれているが、これは疾病の結果に対する処置ばかりを行い、疾病そのものに対する治療をなんら行ってこな かった結果である。それの繰り返しが、患者の生涯にわたる口腔の健康をかえって破壊するという皮肉な結果をもたらしている。修復や欠損補綴処置において精 度の高い処置を心がけることは重要であるが、その前提として疾病のプロセスに対する原因除去療法がなくては、医療とは呼べない。 私たち歯科医師は、長年費やされてきた様々な努力がほとんど無に帰したことを深く心に刻み、受け止めねばならない。そして再度原点に立ちこれまで常識と 思われていた歯科界のドグマを1つ1つ再検証してゆく必要がある。このことによって診療室のシステムそのものを改める必要があるかもしれない。多くの人々 の健康を考えるならば、歯科医療における第一選択は予防でなければならないはずである。予防的な対策が十分に患者個人になされるならば、一生健康な口腔で 食べる楽しみや若さを維持できる人が増えると同時に、加齢や様々の理由で修復を余儀なくされた場合でも、より良い処置の選択や対応が可能となろう。 予防をベースとした歯科臨床の実践は、すでに北欧諸国によって大きな成果を上げていて、北欧ではもはや「齲蝕はまれな疾患」とまで言われている。わが国 においては、まだ始まったばかりであり、行政や社会の理解や援助もまだ乏しいが、これからの歯科医療の方向性のひとつである。 |
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